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ゆみちゃんさんの作品 「スイス 四日間の鉄道旅行」

  • ■列車: ICN661、ICN1511、 IR2315 など
  • ■旅先: ロカルノ、ルガノ、オーバーアルプへ向かう途中
  • ■時期: 2012年9月2日
スイス 四日間の鉄道旅行
 「スイス・セーバーパス」を握りしめて晩夏のスイスへ行ってきた。巡った町は、チューリッヒ、ザンクトガレン、ルツェルン、ベルン、ロカルノ、ルガノ。世界遺産の町やバロックの修道院、美術館に博物館、山々の展望台からは下界を見下ろし、遊覧船からは湖畔の村々とアルプスを眺め、最終日には8時間も電車に揺られっぱなしだった。

 こんな風に書くと、弾丸ツアーのようにスイス中を走り回っていたように思えるかもしれないが、パスの有効期間は一ヶ月。その内の4日間を選んで旅ができるのでスイス滞在が長ければのんびり回る事も可能なのだ。私たちは2週間の滞在だったのでチューリッヒで休みながら、気の向くままに鉄道旅行を楽しんだ。

ルガノ.JPGのサムネール画像
 まずは9月2日。乗客の少ない早朝の電車でチューリッヒからイタリア国境に近いルガノを目指した。朝靄の中に沈むチューリッヒ湖を左手に見ながら、列車はツークへ。そしてそこから右手に湖を見ながら南へ向かったのだが、その先の景色の素晴らしさと言ったら、ただただ車窓からの眺めに見入るばかりで言葉が出て来ない。山の麓の緑なす沃野、草を食む羊たち、霧の中に佇む家々、そしてさざ波に揺れるヨットの帆。観光案内のポスターそのものだが、実際に目にすると思わず息を呑むほどの美しさだ。だがいつまでも見ていたい、と思っても電車は止まるどころか、速度を早め南に向かってひた走る。やがて湖は消え、険しい山々が眼前に迫ってくる。そしてまもなく長いトンネルに入った。

 アルプスの南はイタリアの風が吹いていた。明るい陽射しの下、石造りの家々にどことなく気を許したような風情が感じられる。イタリア語圏に入ったのだ。間もなくベリンツォーナ。ここからロカルノにある巡礼教会に向かう。昔、雑誌でマドンナ・デル・サッソという美しい教会の写真を見た。とあるきっかけでその教会がロカルノにあることを知り、いつか、訪れてみたいと思っていたのだ。

これぞスイス.JPGのサムネール画像
 ロカルノに到着後、駅前の道をダラダラと下るとケーブルカーの駅があった。ケーブルカーは急峻な山肌をぐんぐん登って行く。山の中腹にある駅を降りると眼下にその教会が見えた。背後には陽光に反射して煌くマジョーレ湖が広がっている。山々の緑とアルプスの水を湛えた湖が教会と見事に調和している。ここに聖母が現れた、とガイドブックに書いてある。そんな伝説を信じたくなる心休まる風景に、またしても言葉を失った。

 その日はルガノに泊まった。ロカルノからベリンツォーナに戻りルガノに到着したのは午後2時頃。駅は町の高台にありホームにケーブルカーの乗り場がある。乗り込むと急坂を下って数分で湖畔に面した旧市街に到着するが、円柱の連なるエレガントなアーケードはイタリアそのものだ。だが良く見ると、街路にゴミが無く高級時計店が軒を連ねている。夕方、ホテルの部屋から夕闇に沈んでいく湖を見た。長く充実した一日だった。

 翌日ヘルマンヘッセの博物館に行った。ルガノ近郊の山の上で隠遁生活を送ったこの小説家の博物館から、彼の眠る墓のある教会へ向かうために道を降りて行くと、この作家の遺したスケッチそのものの光景が眼前に現れて思わず歩みを止めた。アルプスの南の風景はどこか優しい。心の安らぎを求め続けた作家の終焉の地に相応しい穏やかな景色だった。

 鉄道の旅の3日目は、ザンクトガレン修道院とベルンの見学だった。朝ザンクトガレンに向かい、修道院とその付属の優雅な図書館を見学してチューリッヒに戻ると、すぐにベルンに向かった。ここは世界遺産の町だが、郊外にパウル・クレー・センターという美術館がある。著名な建築家が設計したこの建物は、背後から見ると畑に半ば埋もれているのだが、正面に回るとうねるような曲線を描く三つの小山からなる建物であることがわかる。スイスには面白い現代建築が多い。そう言えばロカルノの山にも奇妙なケーブルカーの駅がありマリオ・ボッダという建築家の作品だった。古代ローマから現代まで、スイスにはまだまだ見るところがありそうだ。

 さてスイス鉄道の旅。最終日の4日目はチューリッヒからルツェルン、アンデルマットと乗り継いで、そこから氷河特急の走る山岳鉄道路線を経由してクールに出て、チューリッヒに戻る、という日帰り鉄道プランを満喫した。8時にチューリッヒを出発、9時から3時間ほどルツェルンを観光、その後アンデルマットで乗り換えて標高2000メートルを超えるオーバーアルプに向かって登り続け、小さな湖が見えたらそれが最高地点だった。いつの間にか森は消え、岩肌を覆う薄い緑がくっきりと山の形状を映し出していた。停車した電車の窓を開け、澄み切った空気を胸いっぱい吸い込んで夏の太陽に照らされた雪山を見る。「来年はアルプスに行こう。」山歩きなど苦手な私がそんなことを考えていた。

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